父との対面
はやる気持ちを抑え父のいる病院の横を通り過ぎて、母を迎えに実家へ到着すると葬儀屋さんへ連絡を済ませていてくれました。
その足で父の元へ。
看護師さんに案内され薄暗がりの病室へ入ると、いつもの場所で静かに横たわっている父の姿。
でも違っていたのは、父の顔の上に白い布が被せてあったこと。
そっと布を外すと、まるで眠っているかのように穏やかな表情をしていました。
母は
『お父さん、遅くなってごめんね…お父さん、可哀想に…でも、これで楽になったね…』
と、何度も何度も父の顔を撫でながら繰り返し語りかけていました。
私は成すすべもなく、父の硬直して曲がった足に手を置いて『パパ…』と呟くのが精一杯でした。
そこからは、医師から死亡報告を聞いたり、葬儀屋さんと打ち合わせたり、何だかんだで実家へ戻ったのが夜中の2時頃。
母は疲れ切った顔をしながらも、私を労ってくれました。
あの薄暗がりの病室ではわからなかったけれど、母は泣いていたようです。
知り合って60年。
結婚して57年連れ添った最愛の夫との別れ。
離婚した私には計り知れない悲しみが、きっと母の中にはあったことでしょう。
これからは、パパの代わりに私がママを支えていくから、心配しないでね。パパ…
そして、 辛そうにしていた父の入院生活を見ていたので、最期の表情が穏やかだったことにホッとしました。
『パパ、よく頑張ったね。天国で幸せになってね。今まで、ありがとう。』